くまの小話

くまのトラウマ

飯盒炊爨(はんごうすいさん)の読み方間違えると、怒る勢が怖い

始めちょろちょろ 中ぱっぱ じゅうじゅうふいたら 火を引いて 赤子泣いても 蓋とるな

 

ーーと言いますが、飯盒炊爨(はんごうすいさん)は、なかなか面白いものです。

 

「はじめちょろちょろ〜♫」は、飯炊きの手順で江戸時代に、鉄の羽釜が普及したころに出来た歌だと言われています。

 

現代では、ボタン1つでご飯が炊けますが、キャンプでは飯盒(携帯炊飯器)で炊爨(飯を炊く)するのも楽しみの一つです。

 

 

飯盒炊爨(はんごうすいさん)をするにあたって出てくる問題は、飯盒炊爨を“はんごうすいはん”と呼んでしまう事によって起こるトラブルです。

飯盒で炊飯するのだから、はんごうすい“はん”と言いたくなるのだけれど、正式名称は飯盒炊爨“はんごうすいさん”なので、飯盒炊爨を正しく言わないと怒る勢は許してくれません。

 

飯盒炊爨を正しく言わないと怒る勢は、恥ずかしいだの、他で使うと馬鹿にされるだの、私のことを思って注意してくれるのですが、いやいやそこまで怒らんでええやろと思う時もあるわけです。

 

そんな言い間違いをすると、昔の辛い記憶が蘇ってきますーー。

あれは高校生の頃、同じ水泳部の西澤くんもいい間違いを正してやろう勢でした。

 

西澤くんは、日焼け止めを塗るのを失敗して、高校2年の時に、まだらに日焼けをしてしまった悲しい過去がある、クロールの速い選手でした。私はこっそり、ジンベイザメと呼んでいました。

 

水泳部の活動はゆるく、一通り泳いだ後は、談笑しながらプールで遊びます。

そして事件は、談笑の中で起きました。

 

当時、韓流ブームが巷を賑わせていました。

私はあまり、韓流(はんりゅう)と言い慣れていなかったせいもあり、西澤くんの前でうっかり「カンリュウ」と言ってしまったのです。

 

西澤くんは、私の目を見ました。

こいつ、間違えよったぞ!の目です。

 

私はその場を取り繕うように、自分の頬を叩き、舌を噛んでいい間違えた風を演じました。

 

しかし西澤くんは、そんな私を許してくれません。

「今のは、噛んだんじゃなくて、言い間違えたんやろうが!」と。

 

私は笑って「ばれたか〜」と返しましたが、悔しさと恥ずかしさで胸がいっぱいになりました。

 

その後、検索して調べてみると

韓流(はんりゅう)は、韓国語読みらしく、日本語読みであれば“かんりゅう”である事を知りました。

 

今まで日本語で喋っとったのに、急に韓国語なんて使うほうが間違ってる!こちとら日本人じゃ!私は、別に間違っていないんじゃ!

 

そう思ったものの、噛んでしまった素振りをしてしまった自分の愚かさに気づき、恥ずかしい思いでいっぱいになりました。

 

時は経ち、今でも飯盒炊爨で、うっかり“はんごうすいはん”と言って、「はんごうすいさんでしょ!」と指摘される度に、西澤くんの記憶も込み上げてきます。

 

飯盒の中でじゅうじゅうふく蒸気によって押し上げられた蓋を、箸で抑えつけ、蒸らし、出来上がったご飯のおこげは、いつもほろ苦くて美味しい思い出の味です。